安全性と利便性を向上させる、オンライン本人確認。
― 意義 ―
個人情報を扱うサービスにおいて必要不可欠なのが本人確認。この本人確認をオンライン上で完結させるものがeKYCです。electronic Know Your Customerの略で、電子本人確認と訳されています。銀行や証券会社の口座開設やクレジットカード発行時などにおける身元確認をオンラインで実施することを指し、サービスの利便性と安全性を高める仕組みとして注目されています。
ここで「以前からオンラインで銀行口座の開設は行っていました」とお思いの方もいらっしゃるかと思います。しかし、従来はオンラインで申込みを行っても、本人確認書類の郵送、あるいは銀行からの郵送物の受取りが発生。サービスを利用するまでに相応の時間がかかりました。
eKYCでは、本人確認書類と本人の容貌のそれぞれの画像をオンラインで送信することで身元確認を行います。これにより身元確認がオンラインで完結するため、迅速に口座開設やサービスの利用が可能になります。
このeKYCによる本人確認は、金融庁の「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令」に含まれる、「オンラインで完結する自然人の本人特定事項の確認方法の追加」において、具体的な方法が示されています。
金融庁「オンラインで完結する自然人の本人特定事項の確認方法」
https://www.fsa.go.jp/news/30/sonota/20181130/01.pdf
eKYCには2つのタイプ
eKYCには大きく分けて2つのタイプがあります。一つは、セルフィーアップロード型の本人確認。これは自身の写真(セルフィー)と運転免許証などを同時にスマートフォンで撮影、アップロードを行い、セルフィーで撮影された人物と本人確認書類上の人物の同一性を確認します。もう一つは、フェデレーション型の本人確認。銀行や携帯電話会社などで過去に本人確認した情報を、ユーザー同意のもとでユーザーが指定する事業者が本人確認情報を提供する形となります。
― 利点と欠点 ―
eKYCのメリットとして大きいのは、迅速性と効率性。本人確認書類の受領、内容確認、書類の整理、保管の手間が大幅に軽減され迅速な手続完了が可能となります。また、ユーザーにとっても書類をコピーして郵送したり、窓口に足を運んだりといった物理的な手間を大幅に削減でき、一連の業務効率が高まります。さらには、利便性以外のメリットとしては、成りすましによる不正アクセスや不正利用を防止という安全性の観点が挙げられます。
オンライン手続きへのニーズ
対面での手続きや郵送が求められる従来型の本人確認は、事業者(サービス提供)側の工数も圧迫。本人確認書類を1通ずつ受付け、手作業で照合し、処理・保管、転送不要郵便の送付など、対応スタッフの手間と相応のリソース確保を強いられます。また、人的対応である以上はヒューマンエラーが発生するリスクも否めません。万一の際は企業のブランド毀損になってしまうことも。
他方、ユーザー(サービス利用者)側としても申込に手間が掛かるようでは、申込途中で利用を諦めてしまうリスクが生じます。事業者側がせっかくサービスの魅力を伝え、ユーザー側がその魅力を理解したとしても、申込の手間が理由でアンマッチになってしまうケースは、非常に勿体ないといえます。今後、スマホやWebでダイレクトにやりとりできる、利便性の高いeKYCの仕組みを導入することがデフォルトになると考えられます。
利用者を限定してしまう恐れ
eKYCでは免許証などの本人確認書とスマホなどITデバイスを保有していることが前提。免許証の場合、高齢者は返納しているケースや若者の車離れによる未取得のケースなど、本人確認書を持っていない人もいます。多くのeKYCでは、利用ができる本人確認書類は顔写真が写っている運転免許証などに限られており、対応している本人確認書類を持っていないユーザーはeKYCを利用することができないことになってしまいます。
ユーザーにとっては希望するサービスが利用できない恐れがあるほか、企業側にとっても対象のユーザーが限られてしまい機会損失につながる懸念。さらには、eKYCに対応したアプリのインストール作業や、本人確認のための写真撮影に手間取るユーザーも想定され、サービスを利用する前の段階で利用を諦めてしまう可能性があります。たとえば写真を撮影する際、照明の反射やピントのズレなどにより文字が認識できないなど、様々なハードルが考えられます。
― 今後の期待 ―
eKYC適用範囲の拡大
いわゆる犯罪収益移転防止法の改正後、メルペイやLINE Payなどのキャッシュレス決済サービスにeKYCが導入。また、携帯電話不正利用防止法が改正されると、携帯電話の新規契約やMNPの本人確認にもeKYCが適用されるようになりました。今後もレンタル、不動産業務、各種金融サービスへの申込みなど、社会的ニーズを受けて新しく台頭してきたサービス領域を中心に、適用範囲が拡大していくと期待。近年ではそれらをクリアする専用ツール・サービスも数多く登場しています。
撮影技術や照合作業など必要な機能・業務簡単パッケージで提供してくれるものや、eKYC全般の相談に乗ってくれるといったサポートが充実したものなど、様々なサービスが登場したことで、利用しやすさは格段に上がって来ているようです。
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